横浜家庭裁判所 昭和44年(少ロ)1010号 決定 1969年10月13日
被疑者 Y・M
主文
本件申立は、これを棄却する。
理由
本件申立の趣旨と理由は、別紙記載のとおりであるから、これを引用する。
一件記録によれば、本件勾留状の左側上部に「少年の引当りについては、特に慎重な配慮をされたい。又、原則として、午後六時以降の取り調べはしないようにされたい。」との文言の記載のある付箋が貼られ、その付箋中に裁判官式内大佳の印章が押されているけれども、その付箋と勾留状との間に契印が施されていないことは、明らかである。
そうすると、右付箋と勾留状とは一体をなすものでなく、従つて右付箋の文言が勾留の裁判を制約する条件を付したものであるとは認めることができないばかりでなく、右付箋の文言自体も当該裁判官の希望的意見を表示したに過ぎないものと解せられる。
本件付箋に表示されたような事項は、本来、捜査担当官の裁量と良識に委ねられるべきことであり、かような事項を、法定の様式のある勾留状に付箋で表示することは、妥当であるとはいえないが、前記の理由により、本件勾留状に添付の付箋の前示文言をもつて違法ということはできない。
よつて、本件申立は、理由がないから、棄却すべきものとし主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 仁分百合人 裁判官 新川吹雄 裁判官 矢部紀子)
別紙
準抗告申立書
罪名 窃盗 被疑者 Y・M
右被疑者に対する頭書被疑事件につき、昭和四四年一〇月九日横浜家庭裁判所裁判官武内大佳がした勾留状発付の裁判に附加した同勾留状添付符箋記載の条件に対し左記のとおり準抗告を申し立てる。
記
第一申立の趣旨
昭和四四年一〇月九日横浜家庭裁判所裁判官武内大佳が発した被疑者Y・Mに対する窃盗被疑事件勾留状の表面左側上部附近に同裁判官が押印して添付した符箋に記載されている「少年の引当りについては、特に慎重な配慮をされたい。又、原則として、午後六時以降の取り調べはしないようにされたい。」なる文言は違法であるから同符箋掲記文言の取消を求める。
第二申立の理由
本件は、昭和四四年一〇月九日横浜家庭裁判所に勾留請求したところ、同裁判所裁判官前記武内大佳が右請求を認容して、勾留状を発付はしたものの、同勾留状の表面左側上部附近に「少年の引当りについては、特に慎重な配慮をされたい。又、原則として午後六時以降の取り調べはしないようにされたい。」と記載した符箋を添付し、かつ同符箋に同裁判官が押印をなし条件付のような勾留状を発付したが、そもそも勾留請求に対しては、裁判官は刑事訴訟法第六〇条第一項各号該当の有無ならびに勾留状発付の必要性を判断しうるのみであつて、右事項に該当し、勾留状発付の必要ありと判断した以上所定の勾留状のみを発付すべきものであり、その勾留状の記載要件は同法第六四条ならびに同規則七〇条所定の事項に限られ、それ以外の条件などはこれを附加することができないものと解すべきであつて、本件前掲記のような事項は、被疑者の取り調べに当る捜査官の良識にまつとするのが法の建前であると思料する。従つて本件前掲記のような条件的事項の記載は違法かつ無効な附帯裁判と認めざるを得ないので右符箋記載の文言の取り消しを求める次第である。
昭和四四年一〇月九日
横浜地方検察庁
検察官事務取扱副検事 江田嘉見